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福島地方裁判所 平成3年(行ウ)11号 判決

原告 橋本善郎

被告 郡山市固定資産評価審査委員会

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

原告の所有する別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)に対する平成三年度の固定資産課税台帳登録価格につき、被告が平成三年七月二二日付でした原告の審査の申出を棄却する旨の決定は、いずれもこれを取り消す。

第二事案の概要

一  本件の概要

本件は、原告が、その所有する本件土地の平成三年度における固定資産課税台帳の登録価格が高額であるとして審査の申出を行ったところ、被告がこれを棄却する旨の決定をしたことから、その審査手続が違法であると主張して右決定の取消を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告は、福島県郡山市内に本件土地を所有している。

2  郡山市長(以下、単に「市長」という。)は、本件土地につき、平成三年度(基準年度)における固定資産税の課税標準となる土地の価格を、別紙物件目録一記載の土地につき七二三四万九〇五六円、同目録二記載の土地につき四七五二万五一六二円、同目録三記載の土地につき七六万八〇〇〇円、同目録四記載の土地につき六四万三二〇〇円、同目録五記載の土地につき一一二八万九六〇〇円、同目録六記載の土地につき六三万〇九一八円、同目録七記載の土地につき一三万六九二八円とそれぞれ決定し、これらの価格を固定資産台帳に登録して関係者の縦覧に供した。

3  原告は、平成三年四月三〇日(以下、すべて同年であるからその表記を省略する。)、被告に対して、右の各登録価格が不服であるとして審査の申出を行い、あわせて審査手続の方式として口頭審理を申請した。

4  被告は、口頭審理の期日を五月二二日午前一〇時から郡山市役所において開催する旨を決定し、同月一四日ころ、原告と市長にそれぞれ通知したところ、同月二一日、原告が差し支えを理由に七月一〇日以降への延期を申し立てた。そのため、被告は、同月二四日、第一回期日を同月二九日午前一〇時から郡山市福祉センターにおいて開催する旨を改めて決定し、その旨それぞれに通知したが、同月二七日、原告が諸般の都合を理由に書面審理への変更を申し立てたので、その申立を認めて本件審査手続を書面審理方式に変更した(なお、被告は、本件土地に関する案件を事案第一三号ないし第一六号に分けて立件した。)。

5  被告は、六月一五日、原告に対し、市長から提出された答弁書を送付するとともに、期限を同月二六日までと定めて弁ばく書の提出を求めたところ、同日までに同書面の提出を受けた。その後、被告は、七月一〇日、原告に対し、市長の再答弁書を送付するとともに期限を同月一七日と定めて再弁ばく書の提出を求めたが、同月一二日、原告が再答弁書に抗弁の必要を認めて弁護士への依頼を検討中であるとして提出期限を同月末日まで延期されたいとする申立を行ったために、同月一八日、同月二二日まで延期する旨を決定して原告に通知したが、右期限までに原告が再弁ばく書を提出しなかったので本件の各審理を終結した。

6  被告は、平成三年七月二二日、各事案毎に、審査申出を棄却する旨を決定し(以下、併せて「本件決定」という。)、同月二六日、同月二四日付けの各決定書が原告に交付送達された。

三  原告の主張

被告における本件審査手続には次のような違法事由があるから、本件決定はすべて取り消されるべきである。

1  審査手続の違法

(一) 原告は、被告に対して、審査の申出を行うにあたり、その審理方式として口頭審理によるべきことを申請したのであるが、その後、原告の意見を聴取せずに被告が一方的に期日を指定したため不都合が生じて期日変更を申し立てたところ、変更期日も一方的に指定されたために支障が生じ、結果的に口頭審理への出席が不可能となった。そして、原告は、六月三日から同月一八日までの間、欧州へ渡航する予定であったので七月以降の期日指定を希望したが、かえって被告から遅くまで待てないので書面審理に変更するようにと教示されたので、止むなく書面審理への変更を申し立てたのである。また、固定資産評価審査委員会における審査手続が円滑にして公平に実施されるためには、予め登録価格の決定権者から評価の根拠と資料の提出を求めて、これを審査申出人に交付・閲覧させておくことが必要であったにもかかわらず、被告は、そのような処置をとることをせずに口頭審理の期日のみを一方的に指定してきたのである。このような被告の手続運営は、原告の口頭審理を受ける機会を実質的に奪うものであって違法というべきである。

(二) 原告は、市長の再答弁書の内容を検討した結果、本件審査手続において法律専門家の援助を仰がなければ有効適切な主張をなすことが困難であると判断し、再弁ばく書の提出期限を七月末日まで延期することを求めた。ところが、被告は、原告の求めた期限までの延長を認めずに一方的に定めた提出期限が経過すると審理を終結して、審査の申出を棄却する旨の決定をしたのである。このような手続は、原告の弁ばくの機会を実質的に奪うものであって違法なものであるから、右決定は取り消されるべきである。

2  審理不尽の違法

被告は、本件審査手続において、原告が本件土地の各登録価格が高額に過ぎる旨を明確に主張していたのであるが、市長の提出した答弁書には評価の具体的な根拠や資料を示していなかったにもかかわらず、評価の算定資料等を取り寄せることもなく本件決定を行っているのであり、明らかに審理不尽である。

四  被告の主張

1  固定資産評価審査委員会は、審査申出人に対し、その不服事由を明らかにできるよう合理的に必要な範囲で、評価の根拠、方法、手順等を了知できるような措置を取るべきであるとされているが、本件において、被告は、市街地宅地評価法の概要、手順、方法及び本件土地にかかる標準宅地の位置、地積、地目、評点数、正面路線価、画地計算、一点あたりの価格、評価額の算出表などを明示することによって、固定資産評価基準に従って本件土地の登録価格が算出されていることの説明がなされている市長の答弁書を原告に送付しているので、原告は不服事由を明らかにするために必要な情報を了知できたはずである。また、固定資産評価の審査手続は、訴訟手続に類する側面があるとしても、あくまでその本質は固定資産税の適正、迅速な賦課徴収という公益目的実現のための行政手続であるから、審査申出人と市町村長を対立当事者として位置づけて対等の立場で攻撃・防御を尽くさせる、いわゆる当事者主義的な構造を予定していない。本件においては、被告は、再弁ばく書の提出期限をさらに延長したにもかかわらず、原告が再弁ばくをしなかったので、市長から提出された答弁書に基づき、当該宅地の評価が固定資産評価基準に従って適正に行われたか否か、その評価にあたり比準した標準宅地と基準宅地の間で評価に不均衡がないかどうかを審査し、その結果、その算定過程に合理性が認められたことから、さらに評価算定の資料を取り寄せることをせずに審理を終結して判断したのである。したがって、被告は原告の弁ばくの機会を奪っていないし、本件審査手続に審理不尽の違法はない。

2  被告において審査手続を口頭審理の方式で行う場合、原則として第一回期日は、まず市長側からの固定資産税の算定根拠の説明と、審査申出人からこれに対する質疑がなされるに止まり、その弁ばくは次回期日以降に行われることが通常であったことから、第一回期日の指定には審査申出人の都合を予め聴取する運用を行っていない。そして、本件において、原告は、被告の二度にわたる期日指定にも特段の異議を申し立てなかったうえ、審理方式を自らの意思で書面審理に変更したのであるから、被告が口頭審理の機会を奪ったとはいえないはずである。

3  仮に本件審査手続に瑕疵が認められたとしても、軽微な瑕疵は取消事由にはならないし、それ以外の瑕疵であっても、制度の根幹に関わる重大なものを除いて、その瑕疵がなければ異なる結論に至る可能性があると認められる場合に限って取消事由となるに過ぎない。そして、本件において、取り消しうべき瑕疵は存しない。

五  争点

1  審査手続の違法の有無

2  審理不尽の違法の有無

第三当裁判所の判断

一  本件審査手続における違法性を判断するにあたり、まず固定資産評価審査委員会による審査手続の意義と性格等について検討する。

1  地方税法(以下「法」という。)は、固定資産の課税標準となる固定資産の価格は、適正な時価によるものとして(三四一条五号)、これを市町村長が決定して(四一〇条)固定資産課税台帳に登録し(四一一条)、関係者の縦覧に供しなければならない(四一五条)と定めている。その結果、固定資産の納税者が当該登録価格に不服のあるときには、各市町村に設置された固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができるところ(四三二条)、固定資産評価審査委員会は、市町村の住民で市町村税の納税義務がある者のうちから、議会の同意を得て市町村長が選任した委員によって構成されており(四二三条)、審査の申出があったときには直ちにその必要と認める調査、口頭審理その他事実審理を行い、その申出を受けた日から三〇日以内に審査の決定をしなければならず(四三三条一項)、審査申出人の申請があったときは、特別な事情がある場合を除き、口頭審理の手続によることと定められている(同条二項)。このように法が、固定資産評価に関する不服申立の処理をその評価と課税を行う市町村長から独立した第三者機関である固定資産評価審査委員会に委ねた趣旨は、固定資産の評価に際して、評価する者の主観的、恣意的な判断要素が加わる可能性を完全に排除することができないために、中立の立場にある同委員会をして公正な審査を行わせ、もって、固定資産評価の客観的合理性を担保して納税者の権利保護を図るとともに、適正な税の賦課を実現しようとしたからにほかならない。このように考えると、かかる手続の性格は、簡易迅速な納税者の権利利益の救済と課税行政の適正化を図ることを目的とした行政救済手続であって、その審理においては民事訴訟と同様の厳格な手続の施行までも要求するものではない、と解することができる。

前記のとおり、法が審査手続について書面審理を原則としながらも審査申出人の申請があったときには口頭審理によるとしているが、法に定めがあるものを除くほかは、固定資産評価審査委員会の審査の手続、記録の保存その他審査に関し必要な事項など、すべて当該市町村の条例で定められている(四三一条一項)。そして、被告における審理手続の細目を定めている郡山市固定資産評価審査委員会条例(郡山市条例第九九号)によると、書面審理においては、市長に対し審査申出書や必要と認める資料の概要を記載した文書を送付し、期限を定めて、答弁書の提出を求め(八条一項)、必要があると認める場合においては、審査申出人に対し市長の提出した答弁書や必要と認める資料の概要を記載した文書を送付し、期限を定めて、弁ばく書の提出を求めることができ(同条二項)、さらに市長に対し弁ばく書等の送付と再答弁書の提出を求めることができるとされている(同条三項)。このような書面審理の方式からすると、必ずしも一回の答弁書と弁ばく書のやり取りによって、すべての主張や立証を尽くすことを目指しているわけではなく、弁ばくと答弁を重ねることにより早期に争点を明確にして絞り込み、その判断を的確に行うことを予定していると解されるのであり、かような運用をもってして迅速かつ効率的な審理運営が可能になると考えられ、前示の法の趣旨に適うところである。

2  また、法は、固定資産の評価方法について、自治大臣が固定資産評価基準を定めてこれを告示し(三八八条一項)、これに従って市町村長が固定資産の価格を決定するとされているのであるが(四〇三条一項)、この固定資産評価基準によると、宅地の評価は、市町村長が選定した標準宅地の評点数に比準して各宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点一点あたりの価額に乗ずることによって評価額を求める方法によって行うとされており、市町村長は、その評価の均衡を確保するために当該市町村の各地域の標準宅地の中から一つを基準宅地として選定し、標準宅地の適正な時価を評定する場合において、基準宅地との評価の均衡と標準宅地相互間の評価の均衡を総合的に考慮することを求められている。

ところが、納税者の立場からみれば、固定資産課税台帳を閲覧してその所有する土地の価格を知り、これに不服を抱いて審査の申出をしたとしても、その不服事由を具体的に主張するために必要な当該価格の評価の方法や根拠等に関する資料・情報がすべて評価権者である市町村長の手中にあって、その内容をまったく知ることができないうえに、内容的にもかなり専門技術的な事項にまでわたるのが通例であることから、固定資産評価審査委員会としては、審査申出人に対し、早期にその不服事由を具体的に特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲の右資料・情報を了知できるような措置を講ずべき義務があると解せられる(最高裁平成二年一月一八日判決・民集四四巻一号二五三頁)。そして、その主張特定のために必要とされる合理的な範囲については、審査申出人の主張内容に応じて判断されることになるが、例えば、宅地の評価が高額に過ぎるとの主張がなされたときには、前記のとおり市町村長が標準宅地の選定及びその価格の決定を行い、その標準宅地との相関関係によって当該宅地の価格が決定されるというのであるから、とりあえず当該宅地の価格決定に至るまでの過程、すなわち、少なくとも標準宅地の選定とその価格決定の根拠にまで遡って具体的に説明を要するというべきである。

二  そこで、以上のような見地をふまえたうえで、被告の審査手続について、原告の主張するところを検討する。前示の争いの事実及び証拠(甲1ないし7の2、11、12、乙1ないし3の23、5ないし11)を総合すると、本件審査手続の経過について、次のような事実が認められる。

原告は、四月三〇日、被告に対して、固定資産課税台帳登録事項審査申出書を提出して本件土地につき審査の申出を行い、あわせて審査手続の方式として口頭審理を申請したが、その申出の趣旨を「固定資産評価額が大幅に上昇した理由が納得出来ぬ為」とし、その理由を「固定資産評価額の大幅な上昇は土地利用上適切な評価ではない為」と主張していた。そこで被告は、五月一四日、口頭審理の期日を五月二二日午前一〇時から郡山市役所において開催する旨を決定して、原告と市長にそれぞれ通知するとともに、本件土地等に出向いて実地調査を行った。一方、この通知を受けた原告は、日程の調整を行ったが出席が困難であったため、同月二一日、書面をもって、第一回期日の差し支えを理由に七月一〇日以降への延期を被告に申し立てた。そのため被告は、五月二四日、委員会の会議を開催して協議した結果、三年に一度の機会であるから審査申出人の権利を最大限に尊重するとともに、本人が出頭できない場合は代理人の出席も可能なのでこれを積極的に働きかけることとして、期日を同月二九日午前一〇時から郡山市福祉センターにおいて開催する旨を改めて決定し、その旨それぞれに通知した。ところが、同月二七日、原告が同月二四日付の審理方法変更願を提出して、諸般の都合を理由に書面審理への変更を申し立てたことから、同月二九日、被告は、その申立を認めて本件審査手続を書面審理方式に変更することを決定した。そのうえで被告は、同月三一日、市長に対し、提出期限を六月一〇日までとする答弁書の提出を求める文書を発し、同月一四日、市長から答弁書の提出を受けたが、それには固定資産評価基準に従って土地の評価を行うとして一般的な評価方法の概略が説明されたうえで、本件土地の評定について、同一の状況類似地区に属する標準宅地を挙げて、その適正な時価を評点数をもって明らかにし、これとの比準から本件土地の評点数を評定した旨の評価の算定過程が明示されていた。そこで、被告は、同月一五日、原告に対し、右答弁書を送付するとともに弁ばく書の提出期限を同月二六日と定めて通知したところ、そのころ有志とともに税制調査のために欧州へ渡航中であった原告は、同月一八日に帰国すると、地価公示価格や相続税路線価などと比較して固定資産税評価額の上昇率が著しいことを具体的に数字を挙げて主張し、評価額上昇の根拠が明示されていないなどと市長の答弁書を強く批判する内容の弁ばく書を直ちに作成して同月二六日に提出した。被告は、同月二九日、市長に右弁ばく書を送付して七月九日までに再答弁書の提出を求めて、期限までにその提出を受けたが、再答弁書では、地価公示価格等は各々の制度により目的や調査時点が異なるため、固定資産評価額の上昇率と一致するものでなく、また単年度だけでの上昇率の比較は失当であるなどとして、原告の弁ばく内容の当否のみが論じられており、当該評価に関する積極的、補充的説明がなされていなかった。そして、被告は、同月一〇日、原告に右再答弁書を送付するとともに再弁ばく書の提出期限を同月一七日と定め、通知したが、原告は、右再答弁書の内容からしてもはや法律専門家の援助を仰ぐほかないと考えるに至り、心当たりの関係者に打診する一方、同月一二日、被告に弁ばく書提出期限延長願を提出して、現在弁護士への依頼を検討し相談中であることを理由に提出期限を七月末日まで延期することを求めた。そのため、被告は、同月一八日、すでに審査申出からかなりの期間が経過しており、それまでの間に弁護士を選任する機会も与えられていたと考えられるので延期には応じられないとする意見もあったが、協議した末に同月二二日までの延期を決して原告に通知したところ、右期限を経過しても原告から再弁ばく書の提出がなかったので審理を終結して、本件決定を行った。

三  以上の事実関係に基づいて、本件審査手続における違法性の有無を検討する。

1  まず原告は、被告が、原告の意見を聴取せずに一方的に口頭審理の期日指定したことを非難するが、期日指定に際して、その出席の機会を実質的に保障するために審査申出人の意見を予め聴取した方が望ましいとはいえるが、簡易迅速な権利救済を図る法の趣旨や、審査手続には審査申出人のほかにその代理人又は総代、管理人なども関与できるとされていること(前記郡山市条例六条三、四項)などを考えると、一方的な期日指定をもって直ちに違法とすることはできない。

また、原告は、被告が市長に答弁書の提出を求める以前に期日指定を行ったことも本件審査手続の瑕疵として主張をする。しかし、前掲の郡山市条例によると、審査申出人は、口頭審理に出席して意見を述べることができ(九条一項)、委員会は、口頭審理を行う場合においては、そのつど、文書又はその他の方法で口頭審理の日時及び場所を審査申出人及び市長に通知しなければならず(同条二項)、審理に際して必要があると認める場合においては、関係者相互の対質を求めることができ(同条三項)、関係者に対し、その請求により、口頭による証言にかえて口述書の提出を許すことができ(同条四項)、審査申出人が出席している場合においては、口頭審理を終了するに先だって審査申出人に対して意見を述べ、かつ、必要な資料を提出する機会を与えなければならず(同条六項)、書記は、口頭審理について調書を作成しなければならない(同条七項)と定められており、被告の審査手続における口頭審理では、審理期日において、口頭によって意見を陳述することにより主張及び立証を行うことを前提としており、市長から事前に答弁書を徴することまでは予定していない。なるほど、前示判断のとおり、市町村長にいわゆる了知措置義務があると解せられることに照らせば、口頭審理の場合であっても期日前に答弁書の提出を求めて、これを審査申出人に送付することにより予め当該土地の評価方法や根拠等の情報を開示しておいて、その不服事由を具体的に特定させ、口頭審理期日にその主張をさせるという手順の方が、口頭審理を第一回期日から充実させることができるとともに、審査申出人に対し早期に情報を開示することにもなるから、より望ましい口頭審理手続のあり方であると考えられる。しかし、口頭審理期日の審理運営のあり方については手続の主宰者たる委員会の裁量に委ねられていると解されるので、被告において、第一回期日では市長側が土地の評価根拠を明らかにし、これに対して審査申出人から質疑を行うことを予定して、次回期日以降の段階で本格的な弁ばくや答弁を行うという審理方針に基づき、市長から答弁書を徴することなく第一回期日を指定したとしても、その裁量の範囲を逸脱しているとはいえず、このような運用をもって直ちに違法とすることはできない。

以上のとおり、被告の口頭審理に関する手続運営について違法は認められず、加えて前示の認定事実によれば、原告は、結局、自己の都合をもって口頭審理期日に自らが出席できないために、書面審理への変更を申し立てたというのであるから、本件において、被告が口頭審理の機会を実質的に奪ったとは認められない。

2  さらに、原告は、被告が再弁ばく書提出期限の延期を認めないことによって原告の弁ばくの機会を実質的に奪ったと主張する。しかし、前示の事実のとおり、被告は、原告の右申立を受けて五日間の延期を認めた結果、再答弁書を送付してから都合一二日間の猶予を与えていることになるのであって、前示の書面審理手続の構造に照らして、なおも弁ばくを続行できる機会があることを考慮すれば、実質的に弁ばくの機会を失わせると評価できるほどに不当に短い期間であるとはいえない。加えて、被告は、それまでも審査申出の機会を最大限に尊重するとの立場から、予定されていた口頭審理の期日を一度延期し、さらに審理方式の変更を認めるなど原告の審査申出の利益に配慮してきた経過があり、以上の事情から考えても、原告の求めた七月末日までの延期を認めなかったことによって、原告の弁ばくの機会を実質的に奪ったと評価することはできない、というべきである。

3  以上のとおりであるから、本件審査手続が違法であるとの原告の主張は理由がない。

四  次に、本件審査手続における審理不尽の違法の存否について判断するに、原告は、市長の答弁書には評価の具体的な根拠や資料を示していなかったにもかかわらず、評価の算定資料等を取り寄せることなく本件決定を行った点を審理不尽と主張する。そこで、本件審査手続の経過をみると、前示の認定事実によれば、原告は、当該土地の評価が前基準年度に比較して高額に過ぎるとの理由で審査の申出を行い、これに応じて市長から、固定資産評価基準に従って算出した過程を算式を交えながら明示した答弁書が提出されたので、弁ばく書をもって、地価公示価格や相続税路線価などと比較して固定資産税評価額の上昇率が著しいと具体的に数字を挙げながらその不当性を強く主張したが、市長から再答弁書をもって、地価公示価格等は各々の制度により目的や調査時点が異なるため、固定資産評価額の上昇率と一致するものでなく、また単年度だけでの上昇率の比較は失当であると反駁され、これに対する再弁ばくを期限までに行わなかったので、被告が審理を終結して本件決定に至ったというのである。そうすると、被告は、市長から評価の根拠とした資料等を取り寄せることなく審理を終結しているが、市長が提出した答弁書と再答弁書の内容をみると、評価が高額に過ぎるとの原告の主張に対して、比準した標準宅地の選定及びその価格の決定に関する説明が決して十分ではないと考えられるので、その点について市長に補充説明を促さなかった被告の手続運営のあり方にまったく問題はなかったとはいえず、被告が原告に対する了知措置義務を尽くしたといえるかどうかは疑問の余地がないではないが、それでも、前示のとおり固定資産評価審査手続は、行政救済手続なのであって必ずしも民事訴訟と同様の厳格な手続による必要はないから、右の点を斟酌しても、再弁ばく書の提出期限の経過時点における原告の主張では、市長の答弁する固定資産評価基準に従った算出過程について合理性を疑わしめるに至らなかったと認められるので、さらに資料の提出を求めずに判断しても直ちに違法とは認められない。

したがって、審理不尽による違法との主張も理由がない。

五  以上のとおり、原告の主張する違法事由はいずれも認められないので、原告の請求は理由がない。

第四結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 木原幹郎 林美穂 石垣陽介)

別紙物件目録(省略)

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